うちの父にはこめかみに大きな黒子がある。
私が物心ついたときからそれはあったが、その黒子は俗に言う「癌黒子」のようなのである。
黒子の色はさほど濃くはないのに、大きさは異様でしかも膨らんでいる。
あるとき私はその黒子が心配になって父に聞いた。
「ねぇ、その黒子癌になるんじゃない?」
「誰の所為だと思ってるんだ。」
私の所為だとでも言うのか。
せっかく心配してやったのになんて奴だ。そのときはそう思った。
ところが。
ある朝父の顔を見るとそこにあった筈の黒子が消えているのだ。
不思議に思った私は父に聞いた。
「どうして黒子なくなったの?」
「出したんだよ。」
そうか、黒子の中には何か入っているのか…。
ってそんなわけあるかーーー!!
「出したって何を」
つっこみたいのを我慢して私は聞いた。
「鉛筆の芯」
一瞬耳を疑った。
父は何が楽しくて十うん年間もこめかみに鉛筆の芯を埋めて生きていたのか。
第一、なぜそんなところに鉛筆の芯が!?
私の質問に父は
「お前に鉛筆でこめかみ刺されたんだよ」
物心つく前。私は殺人未遂を犯していたのです。
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