NO2-呪われた大浴場 − 確かに私は入ったはずなのに

小学6年生の修学旅行の時の話。

熊本県のとある旅館に到着した我々は各部屋に5〜7人づつ割り当てられた。 夕食までに一時間ほど自由時間があり、食後に順番にお風呂に入るという決まりになっていたのだが、同室のB君とJ君が、「先に風呂に入ろう」と誘う。

3人はいわゆる仲良しの悪ガキ仲間で、先に風呂に入って、食後の正式な風呂の時間には女のこの部屋に遊びに行くか、外に抜け出そうという発想であった。

他の二人がさっさと準備を済ませて、「おい、まだか」と僕を急かすのだが、私はバッグの中の着替えがみつからない。 「先に行っててよ、すぐ行く。」と言って、バッグと格闘した。
やっとの思いで探し当て、数分遅れで部屋を出た。

大浴場はロビーのすぐそばを通り抜けた所にあり、私はどきどきしながら、大浴場と書かれた表示のある方向に向かって狭い廊下を走って行った。

矢印に従ってたどり着いた所は、大浴場というよりは、2畳くらいの脱衣スペースで、B君とF君の名前を呼んでも返事がない。

私は二人とも迷ってしまって、自分の方が先についてしまったのだろうと思ったが、時間が限られているし、先生達に見つかるとまずいので、とにかく急いで服を脱いで中に入った。

ところが、そこは3〜4人用の中くらいのサイズでとても大浴場と呼べるものではなかった。
でも仕方ないので、そのまま身体と髪の毛を洗って浴槽に入った。

二人はまだ来ないし、気が付くととっても薄暗く、私はだんだん怖くなってきた。 しかもなぜか身体が全く温まらない。 震えるようにして飛び出して、さっさと着替え、来た道を部屋に戻りかけた。 異変に気付いたのはこの時点であった。

まず、来た時に明るかった廊下の電気が全て消えて真っ暗!

更に、ロビーからその廊下に曲がる所には立て看板があり、「この先関係者以外進入禁止」のような内容(正確には覚えてないが)が書かれているのだ!

あっけに取られてぼーっとしてるところに、B君とF君が全く別方向から風呂上り姿で現れ、「何してたんだ!遅いからもう出てきた。」と言う。

私は「え〜、僕の方こそ・・・」と言いかけて、何やらいいわけめいたことを話していると、フロントの若いお兄さんが近づいてきた。

「どうしたの?」と聞くので、私は、「こっちのお風呂は使ってはいけなかったですか?」と逆に恐る恐る尋ねた。 すると、そのフロント係は「え?」っと不思議そうな顔をする。

そして真っ暗な廊下の奥をながめ、「こっちのお風呂に行ったの?本当?どうやって?」と矢継ぎ早に問してくる。私が黙っていると、「ちょっと待ってて」と言って、すぐに少し年配の人と一緒に戻って来た。

その年配の人は別にとがめる風でもなく、ただ鍵をじゃらじゃらさせて、「どこから入ったか教えてくれるかい?」と私に言って、廊下の電気をつけ、そこにいる全員で私が入った浴場へと向かった。 事がおおげさになってしまってやばいと感じたが、何やらただならぬ雰囲気に逆らえなかったことを覚えている。

年配の人と若いお兄さんの両方が懐中電灯を持っていて、真っ暗な脱衣場に着いた時にそれをつけた。

実はそこに電球なんぞついてなかったのだ。
そこで私は思わず「あっ」っと声を出してしまった。
なんで、こんなもの・・・

何と、古い木の引き戸にはがっちりと鍵がかかっているではないか。
年配の人は私をちらっと見ただけで無言のままその鍵を外し、扉を開け、二人は真っ暗な浴室の中を懐中電灯で照らした。

何てことだ!
そこには蜘蛛の巣が張っていて、電気もないし、もちろん浴槽の中にお湯など全くない・・・
そこで、私達は更に恐ろしいものを見てしまった!

何と、全ての蛇口が厳重に針金で固定されているにもかかわらずその周辺が濡れていて、排水口の周りに石鹸かシャンプーの泡が残っているのだ!

全員がほぼ同時に「うわあっ」と大声で叫び声をあげた。

が、年配の人は「シーッ」っと言って我々を制し、「さあ、出よう」と独り言のようにつぶやくと、さっさと鍵を閉めて私達をせきたててフロントの明るい所に戻った。

若いお兄さんはかなり興奮していて、年配の人に必死で説明を求めていたが、何やら2〜3言話を交わすと何も言わずに、フロントの奥へ入って行った。

そして戻って来た時には、色んな種類のお菓子を持っていて、「このことは先生には言わないから、君達も友達とかにも言っちゃだめだよ。」と気味悪いくらいに優しく言い、我々3人にそのお菓子をくれた。

B君もF君も結局何のことか理解できず、「お菓子もらってラッキー」程度の体験であったが、私は理解できないながらも、得たいの知れない恐ろしさに怯えていた。

あの、水、泡・・・

実はその晩、私はかなりの高熱にうなされ、いつのまにか先生達の部屋に寝せられて看病を受けてたそうなのだが、これについては断片的にしか覚えていない。

確実に覚えているのは、あのフロントの年配のおじさんがその部屋にいて、先生達に何やら話したり、途中、線香の匂いがかなりきつく匂ってきたりしたことだけで、その間実際に何があったのかは不明である。

翌朝、私が目を覚ました時に担任の先生が僕の顔をじーっと見つめていた。
私は一瞬驚いて、「あ、あ・・・」と言葉にならない声を出していると、先生が「気分はどう?起きれる?」と聞く。

私は実際とてもよく寝たという気分で気持ち良かったので、「はい・・・」というと、寝巻き姿のまま食堂へ連れて行かれた。

そこではみんなが、朝食を食べ始めており、ただ一人寝巻き姿だった私はかなり恥ずかしい思いをしたということだけははっきりと記憶している。

但し、私がなぜ先生たちの部屋に寝せられていたのかを聞いても、先生達が不自然なまでにこの時の出来事について口を閉ざす。

それが却って非常に気になり、大人になってからも何かのきっかけで必ず思い出してしまう。

その度に、あの懐中電灯に照らされた排水溝の泡を見つけた恐怖の瞬間が頭に浮かび、身震いするのであった。

それをきっかけに私は数々の不思議体験を繰り返している。
これは100以上はある不思議体験の中のほんの序章である。
(実話)

投稿者 スイス人 性別: 男 年齢: 36 人種: スイス人(笑)

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